由良君は離さない

「け…」



椅子から立ち上がり
結構です、と断りの言葉を口にしようとした時

背後から伸びてきた手が
やんわりと、私の体を引き寄せた。



「綴(つづ)はだめ」



同時に、耳元で響いた声。

低く落ち着いたその声に、私の心は小さく騒ぐ。



「……やべ、三条(さんじょう)だ」



その相手の顔を見たとたん
ふたりのクラスメイトは
焦ったように顔に汗を浮かべた。



「連れてくの禁止」

「分かった分かった。悪かったよ」



めんどくさいことになる前に、と
そそくさと教室から出ていくふたり。



「…ったく、相変わらず橋本の番犬は
頭かてーんだから」

「あれで付き合ってないんだから、不思議だよな」



去り際に聞こえてきた会話を
しっかり、耳に拾いながら
私は後ろを振り返り、そこにいた人を見上げる。



「綴。帰ろ」

「うん」



私から離れた由良(ゆら)君が、手を差し出す。
いつものように、私はその手を取った。