最初は幻聴だと思った。
だけど。
「ばかじゃないの、おまえ」
目を向けた先、薄闇に浮かぶシルエット。
あのひどいしかめ面はどう見たって本物の巴だ。
おまけに舌打ちなんかして。
甘い顔立ちに似合わないガラの悪い態度。
巴のことは7歳のときから知ってる。
昔はああじゃなかった。
だけどここ数年わたしに対してあれがデフォルトになっている。
「おい」
近年、わたしの前で巴はたいていあの怖い顔をしている。
なぜかというと幼なじみの巴はわたしのことがだいきらいだから。
「聞いてんのかよ」
聞いてるよ。
むしろ巴の声しか聞こえてない。
「奇遇だね」
言うと同時、煙草が指の間をすり抜けた。

