ヤンキー高校に転入した私

大和くんの迫力はすごかった。大和くんの声は大きくもなく、怒鳴ってるわけでもなかったのに、あの一言だけでチンピラ(というか他のクラスの生徒だけど)を追い払ってしまった。逃げ遅れて捕まったヤンキーは何もかも終わったみたいな顔をしていた。

教室で見る大和くんとは雰囲気がまるで違った。クラスのみんなが従っている気持ちもわかる気がする。

「大和くんってすごいんだね。」

薫くんに向かって言ったつもりだったけど、薫くんは何も言わずに前をじっと見ている。視線を追うと、向かいから金髪のヤンキーが歩いてくるのが見えた。

肩まである髪を靡かせながら気だるげに歩いている金髪のヤンキーは棒付きキャンディーを食べている。この学校は何でもありなんだなと思いながらも、新たに登場したヤンキーの存在に体が強張ってしまう。

「薫くん、おはよ〜」
「おはよう、遥。」

「そっちが噂の転入生ちゃん?」
「うん。榎本紗里奈さん。」

「どうも~万年2組の一ノ瀬遥でぇ〜す。」
「榎本紗里奈です……」

棒付きキャンディーを咥えている遥くんは、気だるげでのんびりしているように見えるけど、他を寄せ付けない何かを感じる。孤高な感じが今朝見た大和くんと似ている。

「遥は2組の組長なんだ。こんな見た目だけど、悪い奴じゃないから安心して。」

(2組の組長!?やっぱりクラスをまとめてる人だ!)

「大和のせいで、ずーっと2組なんだよね~」
「仕方ないよね、大和は強いから。」

どういうことかわからずポカンとしていると、薫くんが説明してくれた。

この学校は、1組が最強、2組は次点……そういった階層があるらしい。2組は1組に勝てば1組になれる。遥くん率いる2組は何度も1組に挑んでいるものの、負け続けているらしい。

「クラスの中で戦って組長に勝ったら入れ替わることもある。でも誰も挑戦しない。組長は強いからね。」

遥くんは表情を変えずにキャンディーを食べている。何を考えているかわからない。

「遥はこんなところで何してたの?朝から学校にいるなんて珍しいじゃん。」
「なんか変なことしてる奴がいるって聞いたからさ〜」

「あー、大和だけじゃなくて、遥にも目をつけられちゃったんだね。かわいそーに。」
「俺、弱い物いじめって嫌いなんだよね。」

「よかったね、紗里奈。これで紗里奈に手を出す奴はいなくなる。大和と遥を敵に回したのと同義になるからね。」

遥くんが何をしてくれたのかわからないけど、大和くんみたいにチンピラを牽制してくれたのかもしれない。

「ありがとう……」
「ほーい。」

遥くんはそのまま後ろを向いてどこかへ行ってしまった。教室はそっちじゃないんだけどな……

「行こう、紗里奈。授業が始まっちゃう。」
「うん……」

私は遥くんに背を向けて、1組の教室へ向かった。