短めのやや癖のある柔らかそうな髪に、エアコンの風が当たってふわりと揺れる。
「はじめまして」
固まった教室の空気を溶かすように穏やかな声が響き渡る。
家庭の事情で転入してきたと話す彼は、気取った素振りなんて一切見せずに、関西弁交じりの言葉を巧みに操ってスラスラと挨拶を述べる。
そのトーク力と笑顔に、あっという間にみんなが釘付けになっているのが分かった。何人かの女子の顔は恍惚としている。
そんな彼の自己紹介を、私は窓の外の入道雲を眺めながら話し半分に聞き流す。
今後ほとんど関わることのない人の身の上話に興味をもてるはずもなく、クラスメイトとして最低限、名前さえ分かればそれで十分だった。
しばらくしてSHR終了を告げるチャイムが鳴ると、坂本先生が口を挟んだ。
「じゃあみんな色々教えてやれよ。席はそうだな……」
ようやく終わった。頬杖をついたまま、視線を前方へと戻す。
その時だった。
え――?
転入生の顔から急に笑みが消え、元々大きな瞳が零れ落ちそうなほど更に大きく見開かれる。
「おい」
「え?」
「何だ? どうかしたか?」
「いや、何でもないです」
坂本先生の問いかけに、彼は再び笑顔を浮かべて視線を戻す。
心臓がドクンドクンと大きな音を立てる。
一瞬だった。
でも、間違いなく目が合った。
ずっと窓の外を眺めていたから目を付けられたのかもしれない。だとしたら厄介だ。
彼はこれから間違いなくクラスの中心人物になる。“好かれたい”とか”気に入られたい”という気持ちは一切ない。でも、誰にも邪魔されることなく残りの高校生活を平和に過ごしたいという気持ちは私にもある。
さっきのは一体何だったのだろう。
気になったが直接尋ねることなんて到底できず、ただ悶々としながら彼の後ろ姿を眺めるしかなかった。
「はじめまして」
固まった教室の空気を溶かすように穏やかな声が響き渡る。
家庭の事情で転入してきたと話す彼は、気取った素振りなんて一切見せずに、関西弁交じりの言葉を巧みに操ってスラスラと挨拶を述べる。
そのトーク力と笑顔に、あっという間にみんなが釘付けになっているのが分かった。何人かの女子の顔は恍惚としている。
そんな彼の自己紹介を、私は窓の外の入道雲を眺めながら話し半分に聞き流す。
今後ほとんど関わることのない人の身の上話に興味をもてるはずもなく、クラスメイトとして最低限、名前さえ分かればそれで十分だった。
しばらくしてSHR終了を告げるチャイムが鳴ると、坂本先生が口を挟んだ。
「じゃあみんな色々教えてやれよ。席はそうだな……」
ようやく終わった。頬杖をついたまま、視線を前方へと戻す。
その時だった。
え――?
転入生の顔から急に笑みが消え、元々大きな瞳が零れ落ちそうなほど更に大きく見開かれる。
「おい」
「え?」
「何だ? どうかしたか?」
「いや、何でもないです」
坂本先生の問いかけに、彼は再び笑顔を浮かべて視線を戻す。
心臓がドクンドクンと大きな音を立てる。
一瞬だった。
でも、間違いなく目が合った。
ずっと窓の外を眺めていたから目を付けられたのかもしれない。だとしたら厄介だ。
彼はこれから間違いなくクラスの中心人物になる。“好かれたい”とか”気に入られたい”という気持ちは一切ない。でも、誰にも邪魔されることなく残りの高校生活を平和に過ごしたいという気持ちは私にもある。
さっきのは一体何だったのだろう。
気になったが直接尋ねることなんて到底できず、ただ悶々としながら彼の後ろ姿を眺めるしかなかった。
