カラフル

 電車がホームに到着したのとほぼ同時に、蘭が急ぎ足で姿を現した。栗色の艶髪に朝日が反射してふわりと揺れる。

「間に合ったぁ。よかった」

 普段はフランス人形のように白い頬が、ほんのりと紅潮している。紅潮の原因は走ってきたことだけではなさそうだ。


「どうだった?」
 
 ゆっくりと電車が動き出すと、蘭は窮屈そうに身を寄せながら首を傾げた。
 
「何が?」

「さっきの。告白でしょ」

「え? ああ、うん。……断っちゃった」
 
 歯切れの悪い返事をする蘭の頬は、またほんのりと色付き始める。


「いい人そうだったのに」
 
 悪くなかった。むしろ第一印象だけでいえばいい方だったと思う。優しくて誠実そうな好青年といった感じで。


「うん……でも、知らない人だったから」

「知らない人でも蘭なら上手く接するじゃない」

「そうだけど……ちょっと違ったんだよね。あたしは、何かもっとこう……運命的な出会いがしたいっていうか」


 運命的な出会い?

 ――何それ。


「凛?」
 
 突然黙り込んだ私の顔を、彼女のクリっとした大きな瞳が心配そうに覗き込む。

「何でもない」と言葉を濁して、先程まで読んでいた本の続きを開く。


 言っても仕方がない。
 今更言うべきことでもない。

 そんなの分かっている。だから隠す。


 今更、蘭と険悪になっても、いいことなんて何一つないんだから。