カラフル

 4階まで一気に階段を駆け上がると少し息が弾んだ。窓を締め切ったままの廊下を通る。

 仄かに絵の具の匂いが漂っていた。


 校舎の端まで辿り着き、目の前の閉ざされた扉を見つめる。

 『美術準備室』

 手作りのプレートがぶら下がっていた。割と年季が入っているように見えるから、おそらく過去の美術部員の手作りだろう。


︎︎ 視線を戻す。大きく息を吸い込んでドアを叩いた。


「はい。どうぞ」

 返事が聞こえたのを確認して、もう一呼吸おいてからゆっくりとドアを開いた。

「失礼します」

「おや、誰かと思えば一ノ瀬さん。もしかして入部届を持って来てくれたんですか?」

 穏やかな表情であまりにものんびりした口調で尋ねられたから、冗談だと分かるまで時間がかかった。


「えっと、そうではなくて……」

「違うんですね。残念です」


「今日は、及川先生にお願いがあって来ました」

「そうですか。まあ立ち話もなんですから……どうぞ」

 先生が出してくれた木製の椅子に腰かける。


 西日が差し込む準備室の中は、電気がついていなくても明るく感じた。先生の白髪が太陽の光に照らされてキラリと輝く。


「コーヒー、飲めますか?」

 コーヒーの入ったマグカップを手渡される。


「あ、すみません、気を遣っていただいて。ありがとうございます。いただきます」

 両手で受け取るとそのまま口に運んだ。苦みが口いっぱいに広がる。