自宅から最寄り駅までの約10分間、蘭のお喋りは絶え間なく続く。今日はその内容の大半が転入生の噂話だった。
これまで何度も耳にしてきたその噂話に、時折相槌を打って聞き流しながら過ごす。
いつもと少し異なることが起きたのは、改札を潜ってからだった。
「あの」
他校の制服を纏った男の子が、私たち――いや、正確には蘭に声を掛けてきたのだ。
「はい……? え、あたしですか?」
私の少し前を歩いていた蘭が急に足を止めたから、危うくぶつかりそうになる。
蘭の問い掛けに対し、目の前の彼は大きく首を縦に振った。一方の彼女は困り顔で、男子高生と私に交互に視線を移しながら言葉を詰まらせている。
――なんだ。そういうことか。
「あっちで待ってるから」
状況を察して蘭の耳元でそっと声を掛けると、2人の横を足早に通り過ぎる。
プラットホームへ着くと、隅の白い柱にもたれかかって鞄から文庫本を取り出した。栞を抜き取って続きの頁を目で追いかける。
男子高生のあの様子を見ていると、あれはもしかしたら、いや、もしかしなくても100パーセント告白だ。
見ず知らずの男の子に突然声を掛けられる――そんな少女漫画みたいなドラマティックな展開を目の当たりにしても今更心は踊らない。
心の中で思うことといえば「ああ、またか」だ。
そもそも蘭が異性に声を掛けられること自体が、珍しいことではない。
やや日本人離れした色素の薄い髪や瞳。
それを際立たせる色白で透明感のある肌。
華奢で守ってあげたくなるような外見。
それに誰に対しても優しく愛嬌があり、何でも器用にこなす性格。
私とは正反対の彼女が告白をされる場面は、昔から何度も目にしてきた。
ある時は同じクラスの男子。またある時は同じ部活の先輩。そして、今みたいに初対面の人からの一目惚れ。
だから、たかが告白くらい、もう珍しくも何ともないんだ。
これまで何度も耳にしてきたその噂話に、時折相槌を打って聞き流しながら過ごす。
いつもと少し異なることが起きたのは、改札を潜ってからだった。
「あの」
他校の制服を纏った男の子が、私たち――いや、正確には蘭に声を掛けてきたのだ。
「はい……? え、あたしですか?」
私の少し前を歩いていた蘭が急に足を止めたから、危うくぶつかりそうになる。
蘭の問い掛けに対し、目の前の彼は大きく首を縦に振った。一方の彼女は困り顔で、男子高生と私に交互に視線を移しながら言葉を詰まらせている。
――なんだ。そういうことか。
「あっちで待ってるから」
状況を察して蘭の耳元でそっと声を掛けると、2人の横を足早に通り過ぎる。
プラットホームへ着くと、隅の白い柱にもたれかかって鞄から文庫本を取り出した。栞を抜き取って続きの頁を目で追いかける。
男子高生のあの様子を見ていると、あれはもしかしたら、いや、もしかしなくても100パーセント告白だ。
見ず知らずの男の子に突然声を掛けられる――そんな少女漫画みたいなドラマティックな展開を目の当たりにしても今更心は踊らない。
心の中で思うことといえば「ああ、またか」だ。
そもそも蘭が異性に声を掛けられること自体が、珍しいことではない。
やや日本人離れした色素の薄い髪や瞳。
それを際立たせる色白で透明感のある肌。
華奢で守ってあげたくなるような外見。
それに誰に対しても優しく愛嬌があり、何でも器用にこなす性格。
私とは正反対の彼女が告白をされる場面は、昔から何度も目にしてきた。
ある時は同じクラスの男子。またある時は同じ部活の先輩。そして、今みたいに初対面の人からの一目惚れ。
だから、たかが告白くらい、もう珍しくも何ともないんだ。
