カラフル

「それって、凛ちゃんが自分で作っとるってこと?」

 彼が目を輝かせる。


「そうだけど……」

「俺な、玉子焼きがめっっちゃ好きなんよなぁ」

「あげないよ」

「えーなんで」
 
 陽がわざとらしく口を尖らせる。


「なんで」はこっちの台詞だ。どうしてこの流れで貰えると思ったのか。


「そんなに玉子焼きが食べたいなら、お母さんにお願いしなよ」


 きっとまた余計なことを口走った。そう思った。

 彼は表情一つ変えなかったけれど、雰囲気で何となく感じ取ってしまった。

 彼の手に握られているのは購買の惣菜パン。今日だけではない。昨日もその前も、思い返す限りずっと。

 手作りの弁当を持ってこない男子高生なんて珍しくはないと思う。でも、彼は何となく違う気がする。
 
 高2の2学期。新学期に間に合うようにではなく、1週間遅れて家庭の事情という理由で転入してきた。

 間違いなく私が想像するより複雑な事情がある気がする。


 私が考えていることを察知したのか、陽は手元のパンに視線を落とした。

「同じやな。俺の母親も料理せえへんねん。ていうか、俺、母親おらんのやけどな」

 何も考えずに発言したことを後悔したけれど後の祭りだ。


「あ、ちょ、待って待って! ストップ! そんな顔せんとってや。全然深刻ちゃうんやで? もう10年以上前からのことやし、慣れっこなんやって。父さんは、仕事人間やからお金には全く困らんし、掃除とか洗濯とか、家事代行っていうの? ちゃんとした人がやってくれるし、まあ十分恵まれとる方やな。……さすがに弁当までは作ってもらわんけどな」


 深刻なはずの話をおどけて話すのは彼らしかったが、少なからず私に気を遣っているからだろう。彼のその行動がますます私の情けなさを増長させる。