カラフル

 朝や休み時間だけでなく、彼が私に構うのは昼休みも同じだった。

 何の約束もしていないのに、昼休みになればこうして中庭を訪ねてきて隣でご飯を食べ始める。もちろん私は「一緒に食べよう」なんて一度も誘ったことはない。彼が勝手にここにやってくるのだ。


 彼のそんな行動のせいで、この前遂にクラスメイトにも「一ノ瀬さんって、陽くんとどういう関係なの?」と忌々しそうに質問された。ただ、クラスメイトに話しかけられるのが久しぶりすぎて、どう返答したのかは記憶にない。


 彼の持つ私への好意なんてきっと一種の気まぐれで、すぐに飽きるだろうと思っていた。それなのに一向にその気配はないのだから頭を抱えたくもなる。


「凛ちゃんのお弁当って、いっつもめっちゃ美味しそうやんな」

 そんな私の気持ちになんてお構いなしに、彼は楽しそうに喋り続ける。


「普通でしょ」

「ちゃんとおかずいっぱい入っとるしな。お母さん料理上手やなぁ」


「……うちの母親は料理なんてしないよ」
 
 言い終わったと同時にしまったと思った。適当に流せばよかったのに、つい余計なことを口走ってしまった。


 母親が料理をしないというのは本当だ。一緒に生活していないのだから仕方がないと言えば仕方がない。


 物心ついた頃から、ご飯を作ってくれたのはいつも祖母だった。

 仕事で日本全国を転々としている両親は昔から家を空けることが多かった。そのため幼少期はよく祖母が私と蘭の面倒をみてくれた。


 祖母が亡くなってからは、長期休みになると両親の仕事に一緒について行くこともあったが、高校生になった今ではそんなこともめっきりなくなった。むしろ手がかからなくなった分、両親は頻繁に家を空けるようになった。


 だから今は実質蘭と2人暮らし。家事は分担制。蘭の苦手な料理は当然のように私の役目になっていた。