カラフル

 掴まれている手首がじんわりと熱くなる。

 彼の真剣な態度は、嘘じゃないことを証明するには十分だった。

 この際、嘘か本当かなんてどちらでもいい。いや、むしろ嘘だったほうがよかった。 


 ずっと昔だったら、こんな告白も、ドラマチックな展開も、心の底から喜べたのだろうか。でも、今はもう素直に喜べるほど純粋じゃない。


「ごめん」
 
 黙り込んだ私を見て、彼はゆっくりと手を離す。

「そんな顔せんといてや。困らせたかったわけやない。ただ、知っておいてほしかっただけ」

 寂しそうに微笑む顔から目を背ける。


「……信じないよ。会ったばかりの全然知らない人からの好きなんて」

「うん。ほな、これから俺のこと知ってくれたらええよ」

 呑気にそんなことを言うのは、よっぽど自信があるからだろうか。私のことなんて簡単に落とせると思っているのだろうか。


「知っても好きになんてならない」

「それは分からんやん。好きとか嫌いとかの以前に、そもそも凛ちゃんは俺のことまだなんも知らんやろ? 朝の自己紹介やって全然聞いとらんかったもんな?」

 ずっと窓の外を見ていたことはどうやらバレバレだったみたいだ。


「聞いてた」
「嘘やん」

「関西から来たんでしょ」
「おっ。他には?」

「中学のときにちょっとだけこっちにいた」
「それ、朝言うたんちゃうけど……まぁえっか。ちなみに名前くらいは覚えてくれた?」

「……佐倉(さくら)

「おっ。下の名前は? 聞いてたって言うんやったら、当然分かるやんな?」

 試すような口振りに、少しムッとしながら息を吸い込む。


(よう)、でしょ」

「正解」 

 屈託なく笑うその顔は、直視できないくらいに眩しくて、目を背けたくなる。


 ――名前と同じ、太陽みたいな笑い方をする人だ。

 胸の中で私はまた、今朝と同じ感想を抱いた。