カラフル

 真っ直ぐに私を見る、彼の瞳がユラリと揺れた。


 その真剣さが逆に可笑しくて、堪えきれずに笑いが漏れる。
 
「罰ゲーム?」

「え?」
 
 戸惑う彼の姿が可笑しくて、目尻に滲んできた涙を拭う。


「誰に命令されたの? それとも言い出したのは自分? ああ、分かった。みんなで賭けてるんでしょ。私をオトしたら1000円とかって。動画でも撮ってるんだ?」


 きっと昼休みに散々冷たく接した私への腹いせだろう。

 まともに話し相手をしていたのが馬鹿らしくなった。
 自分の席に戻って、机の上に置きっぱなしにしていた教科書を一気に鞄の中へと詰め込む。一刻も早くここを出たかった。

 
「待ってや。なんでそうなんねん」
 
 彼は慌てて私の後を追いかけてくる。


「ついてこないで」

「なら、俺の話聞いてや」

「聞きたくない。これ以上馬鹿にされるのはもううんざり」

 鞄を肩に掛け、吐き捨てるようにそう呟く。


「馬鹿になんかしてへんって」

「してるじゃない。そうやって私のことをからかって、反応見て楽しんでいるでしょ? 残念だったね、騙されなくっ……」

 鞄が肩から滑り落ちる。


「凛ちゃん」

 彼が私の名前を呼ぶ。


 嫌いだと思った。

 気安く名前を呼ぶところも。

 憐れむようなその瞳も。

 勝手に腕を掴むところも。


 ――全部気に入らない。


「お願いやから、ちゃんと聞いて」

 その震えて消えてしまいそうな声を聞いたら、必死に振りほどこうとしていた腕から自然と力が抜けてしまった。

 腕を掴まれたことに対して「文句の一つでも言ってやろう」――そう意気込んで顔を上げたはずだった。それなのに彼と目が合った瞬間、金縛りにあったみたいに身動きが取れなくなる。


 こげ茶の瞳が私を映す。

「罰ゲームなんて、そんなんちゃうよ。馬鹿にしとるつもりもない。俺、ほんまに凛ちゃんのこと好きやねん。本気で言うとる。やから、そんな風に否定してほしくない」
 
 ゆっくりした口調で言葉を選びながら話す一音一音が、胸の奥に突き刺さる。