カラフル

 教室に戻ってこれたのは、授業が始まる1分前だった。

 自分の席に着き、恐る恐る前方に目線を向ける。彼は既に自分の席に座っており、近くの席の数人と談笑していた。

 戻ってきた私の方をチラリと見た気がしたけれど、気のせいだったかもしれない。



 授業が終わった後も、彼が私に話しかけてくることはなかった。

 それもそうだろう。所詮、彼にとって私は過去に少し会っただけの人物で、しかもそれを「覚えていない」と言い放ち、冷たく接した。きっともう二度と話すこともない。

 正直なところ、もう話さなくて済むと思うとほっとした。


「りーん」

 蘭の声がして、帰り支度をしていた手を止める。顔を上げると華やかな笑顔が飛び込んできた。

「今日ね、ちいちゃんたちと買い物してから帰るね」

「そう。分かった。晩御飯は?」

「たぶん何か食べると思うから私の分はいいよ。あ、もしかして何かもう準備してた?」

 蘭が申し訳なさそうな顔で尋ねる。


「いや、全然」

「ほんとに?」

 そんなやり取りを「蘭、行くよー」とクラスメイトの声が遮る。


 蘭は「じゃあね」と言い残し、教室の入り口まで駆けて行った。


 私も早く帰ろう。蘭がいないなら今日の晩御飯は1人で簡単に済ませ、その分絵を描くことに専念できる。

 そう思って再び始めた帰り支度は、またすぐに中断することになった。