背後で突然聞こえた声が、自分に向けられたものだと理解するまでに数秒かかった。
振り返ると、さっきまで教室で談笑していたはずの転入生がしゃがみ込んで、私の腕の中にあるスケッチブックを興味津々に眺めていた。
見られた。最悪。
慌ててスケッチブックを閉じた私を、転入生が不服そうな顔で見詰める。
自分を落ち着かせようと深く息を吐き、そして早口で尋ねる。
「何か用事?」
「うん、凛ちゃんと話したくて」
彼は私を見てニコリと微笑む。
この人にそんな風に声を掛けられたら、きっと大抵の女の子は喜ぶに違いない。でも私の中で芽生えた感情は、不快感以外の何物でもなかった。
初対面の人間に対してわざわざ名前呼び。しかも“ちゃん”付けだ。きっとろくな話じゃない。
芝生の上に置いていた荷物を持って立ち上がる。
早くここから立ち去ろう。そのつもりだった。
「ちょい待ってや」
「……」
「待ってって。なんで聞いてくれへんの?」
急に腕を掴まれてバランスを崩す。持っていたスケッチブックと筆箱が音を立てて地面に落ちた。
彼を睨みつける。
「離して」
「嫌や」
「はあ?」
「だって、離したら逃げてまうやろ?」
そりゃそうだ。逃げるに決まってる。
ここに留まったって私にメリットなんて一つもない。
視線を外したら負けだ。そう思って彼を見上げたが、それは彼も同じだったみたいだ。無言のまま視線が交錯する。
「……分かった。じゃあ、逃げない。逃げないから離して」
振り返ると、さっきまで教室で談笑していたはずの転入生がしゃがみ込んで、私の腕の中にあるスケッチブックを興味津々に眺めていた。
見られた。最悪。
慌ててスケッチブックを閉じた私を、転入生が不服そうな顔で見詰める。
自分を落ち着かせようと深く息を吐き、そして早口で尋ねる。
「何か用事?」
「うん、凛ちゃんと話したくて」
彼は私を見てニコリと微笑む。
この人にそんな風に声を掛けられたら、きっと大抵の女の子は喜ぶに違いない。でも私の中で芽生えた感情は、不快感以外の何物でもなかった。
初対面の人間に対してわざわざ名前呼び。しかも“ちゃん”付けだ。きっとろくな話じゃない。
芝生の上に置いていた荷物を持って立ち上がる。
早くここから立ち去ろう。そのつもりだった。
「ちょい待ってや」
「……」
「待ってって。なんで聞いてくれへんの?」
急に腕を掴まれてバランスを崩す。持っていたスケッチブックと筆箱が音を立てて地面に落ちた。
彼を睨みつける。
「離して」
「嫌や」
「はあ?」
「だって、離したら逃げてまうやろ?」
そりゃそうだ。逃げるに決まってる。
ここに留まったって私にメリットなんて一つもない。
視線を外したら負けだ。そう思って彼を見上げたが、それは彼も同じだったみたいだ。無言のまま視線が交錯する。
「……分かった。じゃあ、逃げない。逃げないから離して」
