カラフル

 大好きな彼が目の前に立っている。

 口元が微かに動いて、私に向かって何かを訴える。
 でも、よく聞き取れない。


 もう1回言って。

 そうお願いしようにも上手く声が出せなかった。


 どうすればいいか分からずにもどかしさを感じていると、彼は私に背を向けて歩き始めた。名前を呼ぼうにも、喉元まで出かかった声は音になって届くことはない。

 慌てて彼を追いかけた。走って、走って、がむしゃらに息が切れるほど走った。

 でも、歩いているはずの彼の背中はどんどん遠ざかっていく。どれだけ全力で追いかけても、決して追いつくことはない。


 待って。

 お願い、待って。


 やっと声が出せたと思ったのに、その瞬間、遠くに見えていたはずの彼の後ろ姿がパッと消えた。


 そしてゲームオーバーを告げるように、一瞬で目の前が真っ暗になる。