平安物語【完】




いざ支度をして内裏を下がろうという夜、尚仁様が弘徽殿へおいでになりました。

女房達は、散らかった部屋を急いで繕い尚仁様をお通しします。


「本当に行ってしまうのですね…。」

そう呟くやいなや、女房達がいるにも関わらずそっと抱きしめられました。


「み、皆が見ておりますっ。」

あわあわと引き剥がそうとしても、尚仁様はしがみつくようになさって動きません。


「全く…御子がお生まれになると言うのに、まるで父君が赤子ではありませんか。」

容赦なく言うのは、乳母です。

私は困ったように乳母に笑いかけました。