平安物語【完】




―…尚仁様の御寝所に行く途中、前庭に蛍が飛ぶのが見えて、つい立ち止まって見入ってしまいました。

供の女房たちも、ほう…と魅了されています。

ふと視線を上げると、今夜は月が出ていません。


「今夜は、朔月(新月)だったかしら…?」

独り言のように呟くと、

「はい、左様にございます。」

と女房が答えてくれました。


何となく、嫌な予感が胸をよぎりました。