平安物語【完】




私が御簾を挟んで座ると、右大将殿は黙ったままこちらを見つめています。

勿論私の姿は見えないのですが、気配は近々しく感じるのでしょう。

すぐに何ということもなく話し始めましたが、その熱のこもった視線に、私はやはり身の危険を感じました。


「昨日の疲れが取れていませんので、これにて失礼いたします。」

口から出任せを行って早々に切り上げようとすると、

「これは、気づかずに失礼いたしました。

お大事になさってくださいませ。」

と、いかにも礼儀正しく言われました。

色めいたことを言われずに離れられると、ほっとしながら席を立とうとしました。