平安物語【完】




するとぎゅっと引っ張られて抱きしめられまして、私は膝立ちの状態になりました。

愛しい尚仁様の香りに包まれて少しずつ平静を取り戻していると、不意に尚仁様が
「噂の頭の中将は、大層な美男子だったでしょう?」
と仰いました。

「あの殿方は、頭の中将でいらっしゃったのですか。」

と、とりあえず最初の疑問を申しますと、バッと私の体を引き剥がして私の顔をまじまじとご覧になります。

いまだ顔を見つめられる事には慣れませんので顔が赤くなるのを感じますが、尚仁様は私の両腕を掴んでいらっしゃるので顔を隠すことも出来ず、軽く俯いて視線を避けようといたしました。