そのお文を私の方へ差し出されますので、おずおずと拝見いたしました。 『尚仁へ 紅葉の上が倒れた。 屋敷中が大騒ぎで、私もどうしたら良いかわからない。 明仁』 紅葉の上とは式部卿の宮の北の方の呼称で、明仁(あきひと)とは式部卿の宮のお名前です。 宮の御筆跡はいかにも走り書きといった感じに乱れていて、どれほど慌てていらっしゃったのかが窺われます。