優しいうえに姐さん譲りの綺麗な顔立ちをしてて、お父上の組長は『顔なんざ一文の得にもならねぇ』っていつも不満そうだけど、(いか)ついから極道に向いてるわけでもない。・・・と思う。

黙礼して退()がり、自室に戻ると急いで身支度にかかった。女らしくと言われても、スラックスをタイトスカートに履き替えるくらいだ。

ここは男所帯だから普段からスーツスタイルで、私服も自然とパンツしか履かなくなった。髪もショートで薄化粧にピアス。それがいつもの自分、いつもの香西(こうざい)天音(あまね)

ちなみに他の人達は兄さんが呼んでたように、天音の『天』をそのまま『テン』呼びする。名前で呼ぶのは若と姐さんぐらいだろう。

兄さんが死んで身寄りのなくなったわたしを置いてくれて、若の世話係の名目で仕事もくれて、この四畳半の部屋だって、普通の下っ端は個室なんてもらえない。

兄さんは唯一、心を許せる相手だったと、ときどき若は寂しげに遠くを見る。

『天音は大事な忘れ形見だからね』

口癖のように。

兄さんもずっと若の隣りに居たかっただろうから、少しでも代わりになればと、この五年尽くしてきたけど。・・・もう出来ることがなくなる。着替えながら勝手に溜息が零れた。

もう。若のそばにいる理由がなくなる。