若の結婚が決まった。相手は、同じ秋津(あきつ)組、六道(りくどう)会派、永代(えいだい)興業のお嬢だと聞いた。名取(なとり)組とはほぼ同格で、若も向こうのお嬢をいたく気に入ったらしい。

どうやらこれで世話係もお役御免だ。このまま名取の家に住まわせてもらうわけにもいかない、仕事と住む家を見繕わないと。

「おいテン、若が呼んでっぞ!」

「あ、はい。すぐ行きます」

スキンヘッドの長崎さんが台所にのっそり顔を出したのを、手を止めて腕まくりを正す。黒ネクタイが曲がってないか、持ち歩き用のコンパクトミラーで確かめてから、若の部屋へと向かう。

「・・・天音(あまね)です。お呼びですか」

「いいよ入って」

「失礼します」

廊下に正座したまま、襖を静かに横に引いた。

「これから出かけるから、天音もつき合ってもらおうかなぁ」

「分かりました」

どこへ、なんて余計な詮索はいっさいしない。どこへでも付いていくのが世話係だ。

「その格好は好きじゃないから女らしくね」

「あ・・・はい」

にっこり微笑んだ名取組の跡取り、(ひかる)さん。極道の家に生まれたとは思えないぐらい物柔らかで、優しい。