「コーヒー、お持ちしましたよ。さぁ、さぁ、飲んでくださいな」
アンティーク調の事務室。
この医師の趣味なのか。
とても心安らぐ場所で、居心地が軽くなる。
「あの………こういったら何ですけど松阪は今どうしてるんですか?」
「え……、あぁ。まだ体調がすぐれないみたいで、回復は難しいですね」
それほどまだ、深刻だというのか。
というか、あの状態で直るのかという疑問が膨らむ。
そんでもって苦虫を大量に潰したような、苦しい気持ちがじんわりと広がる故。
話題を逸らす。
「あの……それと、どうして勇気の主治医さんがここに?」
キョトンとした、主治医。
「あぁ。個人でクリニックをやっている傍ら、個々の精神病棟の館長でもあるんです」
物腰柔らかそうな、それでいて人を寄せ付ける天性のような人だ。
そんな場所にいていいのかと心配になったのだが。
「かく言う貴方も………大丈夫なんですか?あんな雨の中、歩いていてーーー何かあったんです?」
「その………色々と。過激な事がありまして」
「でも…、そうですよね。あのお二人の友達というか………同僚ですもんね」
「まぁ……学校という所は、秩序が難しい所もあって」
俯いて、コーヒーに写る自分を眺めた。
こんなにやつれてしまったのは、いつぶりだろう。
ガサゴソと身を捩らせて、何かを取り出す主治医。
怪訝に思ったが、取り出したのは何かのアルバムだった。
「これね……、松阪との数年間の思い出なんですよ」
愛おしそうな目線で、アルバムを開いた。


