「準備ができましたよー」



優しい顔の看護婦が、部屋の中から顔を見せた。



息を呑む。



そこに現れたのはーーー。




くまのぬいぐるみを、机の周りに並べて家族ごっこをしている松阪だった。



髪はボロボロで、何年もヒゲを剃っていないような不潔な顔まわり。



目にはげっそりとした、隈が覆いかぶさっていた。



あの華やかな、松阪とは全然想像もつかないほどーーー痩せ細っておりもう俺たちの知っているかれはいなかった。




「ゆりちゃん?ごはんたべてよー。ぼく、せんせいになったから、しごとにいかなきゃー。だよねー、ままー?」



「松阪さん。奥さんはもう………いないんですよ?」




「ままー?ままー!!!」




俺達は固まって、立ち尽くすしかできなかった。



「ままは、ぼくのおよめさん。だから、いなくなることは、ないんだよ?ゆりちゃんもぼくのこどもだから。ねー、そうだよねー?」



くまのぬいぐるみを愛おしそうに撫でる。




「おともだち、まだー?」



「もう………もうあかんっ!!!!」



早羽は耐えられなくなり、走って逃げ出す。



それを追う。



全力で追いかけた先は屋上。



何処に向かって走ればいいのか分からなかったのだろう。



「もう………嫌やっ!!!なんで………なんでこんなっ!!!!」




「落ち着けよ、早羽!!!」




「こんなん、落ち着いてられへんやろ!!精神、ぶっ壊れるとるやないかい!!話できる状態やない………死んでるようなもんや!!!」


「…………早羽」



「ワイの………ワイのせいなんか?」