雪は殴られた右頬を少し軽くさすり、笑った。



「あんた、度胸あるじゃないか」




「あんたのこと、今度うちの亭主になんかしたら殺してやるわ」




「それはどうかな。俺、いいこと思いついたからさ」




そう言って、颯爽と何処かへ去っていく雪。



ーーー絶対にこのままで、終わるわけないような気が。




そんな予感はしたのだが、直ぐ様嫁さんに駆け寄った。



周りはまた、いつも通りの空気に溶け込み何事もなかったかのように進む。



「大丈夫ですか?」




「あぁ、あなた………もしかして修先生?」




驚いた拍子抜けの面をみてせいたからか、嫁さんは話してくれた。



松阪がどれほど俺を尊敬していて、どれほど助けられていたのかを。



「あの人、私以外の人に心開くのなかなかないからさ。あなたの事はよく耳にしていたわ。これからも、よろしくお願いね。あの頼りない亭主を」




そう言い残して、松阪の嫁さんは帰っていった。



騒動があった後始末は、俺がすることになったが相変わらず雪は平然と反省文を書き貫くだけで何だか気味が悪かった。



だけどもそれとは別に、別の感情も駆け巡っていたわけで。



ずーっと松阪はこんな自分の事しか考えてない俺を尊敬の念で見ていてくれていたんだなと、嬉しい気持ちもあったのだ。