「負けたくないんだよ。負けたくないんだよ。負けたくないんだよ!!!自分に!!!」
掴みかかられたと思ったら、俺は仰向けに倒れていた。
松阪が馬乗りになって。
「僕は、僕は、優しさしか取り柄がないんだよ!!」
力の無いパンチで俺の胸ぐらを殴る、松阪。
それは虫のような弱々しいパンチで。
彼自身の弱さを表しているようで、情けなかった。
見ていられないけれど、受け止めてあげたかった。
「僕はこの学校で、一番仕事ができない教師ってことは君も周知の事実のはずだよ……。勉強も教える事が上手いかと言われれば……そうでもない。いいところがあるとすれば………優しさだけ。君のように自分を守る強さもなければ、跳ね返すような運動神経だってないんだよ………っ!!!」
殴り続ける松阪の手がどんどん弱々しくなっていく。
それは、心の底の感情を全て出し切ってしまったような………そんな感じがした。
「君だったら、そこまでわかってくれている親友だと思ってた」
「違う……そんなつもりじゃ」
「でも、もうどうでもいい。僕は変わらない。そして君も変わらない」
「話を聞いてくれよ」
「聞けないよ。こんな状況下で、そんなこと言う人間だとは思わなかった。生徒に対しての考え方が………そもそも違うのに、どうして僕たち一緒だったんだろうね」
力なく立ち上がった松阪。
その姿は、教師の成れの果てのようでゾッとする。
それから、暫く松阪と口をきけなくなってしまった。
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