アポ無しで来てしまったから、母親は驚いた。
「あの………今日は、訪問日でした?」
「いえ。勇気と直接話したいことがあるんです。お時間よろしいですか?」
なるべく腰を低くして、話をした。
母親の顔に光が差したような気がしたから、それが正解なんだろう。
「勇気、先生よ。開けないとパソコン売り捌くから」
早速母親に、案内してもらい部屋へ入る。
母親は一階に降りてもらい、俺と勇気だけ。
相変わらず暗い部屋の中心で、パソコン動画とやらの編集をしていた。
「好きなんだな。歌が」
「ーーー聞いてたの?」
「聴かせるように歌ってたんじゃないのか?」
「見下してるくせに、変な事言わないでよ」
「いいや、いい歌だった。これはお世辞じゃない」
「んで?条件は?」
「………単刀直入で言う。歌を続ける為に、学校に来い」
勇気のパソコンを打つ手が止まる。
「はぁ?何言ってるの?」
「そのままの意味だ。好きなものの為に、学校に来る。ただ、それだけだ」
勇気は俺を睨みつける。
「俺を睨んだ所で、状況は変わらないぞ?」
「学校一の嫌われ者が、学校に行った所でーーー何かが変わるの?」
確かにその保証はできない。
だけどーーー。
「好きな事をして生きていくことは、相当厳しいことだからってこともお前は知っているはずだ。高校に入る事は出来てるんだからそこは、分かるだろ?」


