「アイツ………あんなに歌が上手かったのか………」
その歌声は町中にたちまち現れたら、天使が舞い降りたかと思うほどの儚い、声音。
「………やっぱり、来てよかったのかもしれへんな。今日、何もしてやれへんやったけど」
「………なぜそう思う?」
「なんとなーくや。この歌も、実は俺達に、聴かせてやりたかったんやないの?多分やけど」
馬鹿馬鹿しいと思った反面、それは当たっている気がすると考えることもあって。
「でも……あの腕時計なんか引っかかるよなー」
早羽が呟いた一言は、松坂には聞こえなかったのだがーーー俺には聞こえた。
一階でお母さんと話をした際、タンスの奥側に家族写真が置かれていた。
そこに写っていた3人の中に。
勇気がつけていた、腕時計をはめた実のお父さんが写っていたのだ。
つまり、勇気がつけていたあの腕時計は、お父さんの形見なのだがーーー。
ーーー何で、実の息子を捨てた父親の形見を大切にこの最悪なタイミングでつけているんだ?
と考えずにはいられなかった。
だって入っていた時には、つけていたから。
そんだけ、父親の愛とやらに枯渇しており毎日つけたいと願っていたのかと、都合よく推測していたい。
「………二人とも、ちょっと話そっか」
様々な気持ちを抱えたまま、居酒屋に寄ってこの後どうやったら勇気を変えられるか話し合った後。
なかなか対策とやらが見つからず、それぞれの場所に戻るしか他なかった。


