『お母さんあのね!今日テストで100点取ったんだよ!』
何も出来ない私に翠が気を使っている事なんか気付かないわけがなかった。
『今日ね、先生に絵が上手って褒められたんだよ!』
『あのねあのね、今日ね…』
『お母さん、今日はね……』
でもそれが、完璧な母親になりきれない私にとっては惨めに感じてしまったのだ。
あの人なら、何て答えたんだろう。
あの人が親権を持った方がこの子は嬉しかったのかもしれない。
翠から見れば私はきっと“自分から父親を奪った人”だろう。
『そう、良かったわね』
素っ気なく返事をしてしまう母親に段々と、翠はその日あった嬉しかった事や楽しかった事を話さなくなった。
そして必然的に会話は無くなっていった。
いつからだろうか。
翠の笑顔を見なくなったのは。
『いいよ、お母さん。私がやるから』
家事も、いつの間にか翠の方が出来ていたのは。
『仕事?…あぁ、行ってらっしゃい』
なんとなくお互い避け始めたのは。
月に1度だけでもいいから、と翠の様子を見る為にわざわざ家に帰って。
今どき銀行に振り込めば済むのに、わざわざ手渡しで渡して。
それでも自分の口から出る言葉はあまりにも大人気なく、不器用でどうしようもなかった。

