「………」
「………」
…沈黙が苦しい。
ついていたはずのテレビはいつの間にか消されていて部屋の中は静まり返っていた。
「…話があるんでしょ」
「…うん、」
母の奥に見える理人さんはソファの背もたれに埋もれてどこか一点を見つめている。
私の視線に気付いたのか、パチっと目が合うと優しく微笑んでくれた。
まるで“大丈夫”って言ってくれているみたいに。
「…この、前…見たの」
「何を?」
「お母さんが…、駅に男の人と腕組んで歩いてるところ」
ぎゅっと目を瞑って、お母さんの反応は見なかった。
でも、息を飲む音が聞こえた。
「あの時私たまたま柚季と駅前に居て、カフェに座っててたまたま窓の外見たら……」
知らない男の人と腕を組んで楽しそうに笑っているお母さんが歩いてて。
「………」
…何も言ってくれない。
「ごめんなさい」
なんて言われるのか、色んな言葉を考えていた。
『お父さんと別れたんだから好きにしてもいいでしょ。』
『お母さんは恋愛もしちゃいけないの?』
『あんたもう高校生なんだから私が居なくても生きていけるでしょ』
自分がこれ以上傷つかないように。

