ガチャ、とゆっくり玄関のドアを開けると綺麗なヒールが並べられていた。
リビングからはテレビの音が微かに聞こえてくる。
「………理人さん、」
「大丈夫」
つい、怖くなって理人さんの名前を呼んだ。
それが伝わったのか優しく微笑んでくれた。
玄関で靴を脱いでいると、リビングからこちらへ近付いてくる足音が聞こえた。
「翠?どこに行ってたの、……?」
「あ、お母さん…」
「お邪魔します」
「…えっと、貴方は?」
「初めまして、菅野理人です。娘さんとは…友達です」
少し迷った後に言った“友達”という言葉に、母はピクリと肩を揺らした。
「…友達?」
「僕が居る事で邪魔になるのは分かってます。でも、同席させてくれませんか?」
「お願い、お母さん」
「…いいわ。とりあえず入りなさい」
「ありがとうございます」
…ピリっとしたこの空気のおかげで変な汗が出る。クーラーが効いたこの部屋が少し寒いと感じるほど。
理人さんはソファの少し離れた所に座って、私とお母さんは食卓テーブルを挟んで向かい合って座った。

