「…昨日、何かあったのか」
「え?」
「泣いてただろ」
…気付いてたんだ。
雨と汗で顔面ぐしゃぐしゃだったはずなのに。
あ、私そんな状態で理人さんに介抱されちゃったんだ…。
恥ずかしすぎる…。
「…やっぱり気になります?」
「流石に気になる。…話したくないなら聞かねぇけど」
テレビに目を向けたまま、私を見ずに話し続ける理人さんはやっぱり優しい人だと思った。
「昨日、見ちゃったんです」
「…何を?」
…あぁ、思い出したくもない。
1度も母が家族に見せた事がないようなあの表情を。
「……お母さんが、男の人と歩いてるところ」
別に、きっと、悪い事じゃない。
だってもう離婚しているし、母が誰と恋愛しようと自由だ。
「多分、新しい人?彼氏なのかなぁ」
ろくに家に帰って来ないくせに、仕事だと言っていたくせに。
とか、そんな事でこんな複雑な気持ちになっているわけじゃない。
ただ…。
「嫌だったのか。自分の母親の女の部分を見てしまったのが」

