「珍しく焦って家に飛び込んで来たから何事かと思えば『翠がっ!』ってそれだけ繰り返してて」
倒れた私を見て焦った理人さんは近くに住んでいる朱音さんを呼びに来たらしい。
「壊れたおもちゃみたいに名前だけ繰り返すから、それだけじゃ分かんないってよく聞いてみたら翠ちゃんが熱出して倒れたって言われたんだよ」
「わぁ…」
「あんなに慌てふためく理人見た事なかったからめちゃくちゃ面白かったんだよね」
私が起きた時、そんな風に見えなかったのに。
ソファに座るように促されて大人しく座ると目の前にあったローテーブルに朱音さんはトレーを置いた。
「食欲はあるかな?一応お粥持って来たんだけど…」
1人前用の鍋の蓋を開けられた瞬間にふわぁっと湯気が立ち上りいい匂いが一瞬にして広まった。
「わぁっ、美味しそうです!朱音さんが作ったんですか?」
「うん。口に合うか分からないけど…」
「いただきます!」
小皿によそってくれたお粥をひと口食べると優しい味が口いっぱいに広がり、とても美味しかった。

