3日目の朝。
1階へ行くといつも通りの綺麗なスーツを着た母が電話で誰かと話していた。
「……うん、うん。………いや、まだ……」
その途中でパチッと目が合ってしまった。
少しだけ気まずさを感じつつ、リビングの中へ入ると母は電話を切った。
「これ、今月分ね」
「…ありがとう」
「じゃ、私もう行くから」
「今日まで休みじゃなかったの?」
「早めに仕事に戻る事にしたの」
母から渡された封筒には1ヶ月分の生活費が入っている。
毎月1回、必ず帰って来る理由はこれを渡す為。
「…そう」
「翠。……あ…いや、なんでもないわ。来年の事を考えて今からしっかり勉強しなさいよ」
「分かってるよ」
ガチャン、と玄関のドアが閉まる音が聞こえた。
その瞬間に家の中が一気に静かになったような気がした。

