「じゃあ、翠の事頼んだわよ」
「はい、ありがとうございます」
先に帰って行ったお母さんを見届け、駅まで2人で歩いて行く。
終始無言の私に理人さんはどうしたらいいのか分からなくて隣でソワソワしていた。
「…何?会いたくなかった?」
「会いたかったに決まってます」
「じゃあなんでそんな怒ってんだよ」
理人さんから貰った花束を両腕で抱き締めるように持ち直す。
ニヤニヤと笑いながら私の顔を覗き込む理人さんはズルい。
「登場の仕方が少女漫画でした」
「は?」
「スーツ姿、かっこよすぎて目が潰れました」
「…翠の言葉選びって独特だよな」
ありがとう、と呆れた顔で言われた。
スーツのおかげでスタイルの良さがより一層引き立っている。
誕生日にプレゼントしたピアスも着けてくれていて。
出会った時と変わらないほんのり甘い香水の匂いがして、ぎゅっと抱き締めて欲しくなった。
「家まで送る」
「ありがとうございます」
「どーいたしまして。今日駐車場あっちだから」
いつもの駐輪場ではなく駅の裏手へと歩いて行く理人さんの隣を何も考えずに歩いていると立ち止まったのは有料駐車場だった。

