入試前、お母さんはよくトンカツを作っていた。
“受験に勝つ”でトンカツ。
「込めた愛情は誰にも負けないわよ」
「それはどうもありがとうございました」
満足気なお母さんを見ると、つい笑ってしまった。
『翠ちゃん、トンカツどうだった?』
『…トンカツ?』
『あれ?聡美さん作ってない?』
『確かに作ってくれましたけど…。あ、もしかして』
『分かっちゃった?聡美さんから翠ちゃんが受験生だから作り方教えてほしいって言われたんだ』
『ちょっと…、いやだいぶ焦げてましたけど美味しかったですよ』
『はははっ、焦げてたのか!』
なんて会話をこの前家に来た佐伯さんと交わしたのを思い出した。

