すっかりお祝いモードとなった奏汰さん。
テーブル席に移った私は朱音さん達がワイワイと騒ぐカウンター席を見ていると、その中から理人さんが私に近付いた。
そしてわざわざ隣から椅子を持って、私の隣に体操座りで座った。
『…翠も、早く20歳になればいいのに』
『え?』
『そしたら一緒に酒飲めるし、ワンチャン…、付き合ってるし……?』
『えっ!』
『…なんだよ』
『…もしかして、もう酔っ払っちゃいました?』
『はぁ?』
意図的になのか偶然なのか、上目遣いでこちらを見てくるその目。
酔っ払っているのかうるうるしている。
笑いながらそんな理人さんの頭へと手を伸ばした。
ふわふわしてそうなその髪に手を伸ばした瞬間、パシッと呆気なく捕まった。
『今日はワックスつけてるからダメ』
『あ、そうなんですね』
『手がベタベタになるの嫌だろ』
『いつもは付けてないのに、今日はどうして?』
『……そんなん当たり前だろ。好きな子が来るんだから。俺だって髪セットくらいするわ』
ムスッとした表情で、胸がきゅうっと締め付けられるような事を理人さんは簡単に言う。
そう言った後、理人さんはすぐに朱音さん達の元へと戻ってしまった。
『好きな子』という言葉が頭から離れない。
心臓がバクバクしていて忙しい。
素直になれない不器用なところも、耳を赤くしながらなんでもないように簡単にそう言ってのけるところも、もう大好きで堪らなかった。

