「……依織くん、の事」
今すぐ受け入れようなんて思わなくていい。
「父親も母親も俺にとっては、いないのが当たり前だったから別に…」
「はい」
「今まで一緒に居てくれたのは依織くんに変わりないから。あんなに、薬飲む程抱えてたとか知らなかった…」
雨音さんが名前に込めた想いは叶っている気がする。
彼女が考える“真っ当な生き方”は分からないけど、自分の事よりも周りの事を考えて落ち込む程優しい人だ。
「理人さん」
「…なに」
「ちゃんと依織さんと話した方がいい、ですよ」
「…くそっ、分かってるわ」
帰りましょっか、と手を差し伸べるとべーっと舌を出して立ち上がった。
「あっ、ちょっと!もう!」
「どさくさに紛れて触ろうとすんな!」
「はぁっ?そんなんじゃないし!人を変態みたいに言うのやめてください!」
フッ、と笑った彼に心底安心してしまう。
やっぱり私は理人さんが好きなんだ。
理人さんにはこんな風にずっと笑っててほしい。

