クラブの外に出て辺りを見渡しても理人さんの姿はどこにもなかった。

足早すぎ…。
とりあえず居そうな所に行ってから…。


「ここから10分くらいの公園」

「えっ?あ、依織さん!」

「公園つっても昼間でも人があんまり寄り付かなくなった空き地みたいな所だけど」


夕方と言うにはまだ早い時間帯で、日が落ちるのが早くなったとはいえ外はまだ明るい。
眩しそうに顔を顰める依織さんが少し遅れてクラブから出て来た。


「多分俺が行っても状況は変わらないと思うから、代わりに行ってくれる?」

「依織さん…」

「最後にもう1つ、聞いてもらえる?」


弱々しく微笑む姿につい、足が止まる。


「雨音がさ、理人を施設に預けた理由は失礼な理由だったんだ」

「失礼な理由?」

「自分がいなくなった後、俺が理人の世話をするのは分かりきってたんだよ」


はぁ、とため息をついて思い出すように言葉を続ける依織さん。


「施設長に『この子には普通の幸せな生活を送って欲しから』って言ってたらしい」


その表情は寂しそうで悲しそうで。
もう既にこの世にいない彼女を思っているようだった。


「そんなの、俺と居たら不幸せになるって言ってるようなもんだろ。……だから俺は昔からあいつの事が嫌いなんだよ…」

「えっ?」

「あぁいや。…雨音が決めた“理人”っていう名前には“真っ当に、誇れる生き方をしてほしい”っていう意味があるんだ」