「……妊娠してたんだ」

「え、」

「もちろん、その子供の父親は亡くなったその彼氏だ」


“バイクに轢かれた”
…だからさっき私が轢かれそうになったのを見て過呼吸が起きたのか。

昔の事を思い出してしまって。

雨音さんの事を話す依織さんは本当に辛そうで大切な人を目の前で亡くしてしまったトラウマはいくつになっても消えない事を思い知った。


「雨音は最初、不安そうな顔をしていたけど喜んでいた。“彼の子供なら”って名前まで決めてさ…」

「…依織さん、?」

「……っ決めて、無事に産まれたのに…」


雨音さんは子供を産んでしばらくした後、自宅のお風呂場で首を切って亡くなってしまったらしい。


「そ、その赤ちゃんはどうなったんですか?」

「雨音は死ぬ直前に、子供を何処かに預けたらしい」

「……一体、何処に…」

「施設にだよ」

「……依織、さん。もしかして、その子供は…」

「あぁ、きっと、翠ちゃんの想像通りだよ」


もしも、彼女が生きていて。




「その子供は、理人だ」




両親の愛情を深く受けた彼だったら、少なくともコンプレックスなんて背負う必要は無かった。
私との間で気まずさを感じる必要なんてなかったのだ。

…俺のせいだとあんな風に言わなくて済んだはずだ。