「“雨音”は依織の…、何て言ったらいいんだろうな」


いつの間にか戻って来ていた羽場さんの手には水の入ったグラスと濡れタオルを持っていた。


「彼女ですか…?」

「いや、2人はそんなんじゃなかった。彼女でもなく、友達でもない」

「羽場さんは、雨音さんという方を知っているんですか?」

「……知ってる。よく、知ってるよ俺は」


懐かしそうに、少しだけ微笑んだ羽場さん。
でもどこか悲しそうに思えた。


「依織、起きろ。とりあえず薬飲め」

「……ぅ、」


依織さんは天井から吊るされた照明が眩しいのか、眉をひそめながらゆっくりと体を起こした。

そしてポケットから取り出した錠剤。


「……何か、ご病気なんですか?」

「………」

「あ、すみません!失礼ですよね…」

「…いいよ。気にならない方がおかしいから」


照明がついているとはいえ少し薄暗い室内。
それでも依織さんの顔色が悪いのが分かった。


「こう見えてちょっと精神的にね、不安定になる事があるんだ。自分でもコントロール出来なくて過呼吸になったりするんだよ」

「え…」

「時期的な問題もあるんだけど、薬飲めば大抵治まるから大丈夫」

「この事、理人さんは…」

「知らないよ。こんなのめちゃくちゃかっこ悪いでしょ?」


依織さんはびっくりさせてごめんね、と申し訳なさそうに笑顔を見せながら謝った。