落ち着いた後、くたりと動かなくなった依織さんに驚いていると支えていた男の人と目が合った。


「……悪いが、君も来てくれるか」

「えっ」

「依織を店の中に運ぶから手伝ってくれ」

「わ、分かりました!」


気を失う前、依織さんはこの人の事を“サクラさん”と呼んでいた。


…そうだ、思い出した。この間朱音さんのお店に依織さんと一緒に来ていた男の人だ。
確か苗字は、羽場さんだったか。


依織さんをお姫様抱っこした羽場さんはスタスタと何処かへ進んで行く。

そこは営業時間前のSTRAY CATSだった。
お客さんが居ないとこんなにも広く感じるのかとフロアを見ていると「こっちだ」という声が聞こえてハッとした。


階段を上がって奥へと羽場さんはぐんぐん進んで行く。

私はそれに必死について行った。


「水とタオル持ってくるからそれまで依織の事見ててくれ」

「分かりました」


高級感のある完全個室。
黒の革ソファが壁に沿って置かれていて座ると深く沈むくらい柔らかい。


「……ね、」

「…依織さん?気付きました?」

「…ごめ、…まね、」

「………」

「……ごめん、雨音、」


…ずっと、誰かに謝ってる。
“アマネ”さんって誰の事だろう。

理人さんの口からも聞いた事がないし、名前的にその人はきっと女の人。
あ、愁さんの彼女なんだろうか。

でもどうしてこんなに謝っているんだろう。