学校が始まって初めての土曜日。
今日は休みだとメールで教えてくれた理人さんの元へ向かっていた。

もう少しで朱音さんのお店が見えるというところでふと視界の端に写った人物に視線を向けると見覚えのある人だった。


「あれ?翠ちゃん?」

「あ、…確か、依織さん」


少し離れた所でヒラヒラと手を振って微笑んでいる彼に駆け寄ろうとした。

依織さんは知っている人だし、今は明るいお昼だし。
もし理人さんにバレても怒られる事はないだろう。


「依織さ、」


…駆け寄ろうとした。
それまで笑顔だった依織さんは一瞬で強ばった表情になり、私の方へ走って来ている。



「雨音っ、!!!」



それは知らない名前だった。

私の腕をグッと力強く引き、気付けば私は依織さんの上に乗るように倒れていた。

その脇を1台のバイクが通り過ぎて行く。
そのバイクを見て、依織さんは私を助けてくれたんだと気付いた。


「すみません!私、周りよく見てなくて、大丈…」

「ハッ、…」


大丈夫ですか、と声をかけようとすると依織さんは苦しそうに呼吸をしていた。