「分かるだろ?意図的にお前に会いに来なかったわけじゃない。“来れなかった”んだよ」
「別に、もう俺は…」
「…お前はすぐ嘘をつくくせに分かりやすいのが残念なところだな」
「………ムカつくんですけど」
カットしたフルーツをタッパーに補充していき、忙しくバー営業の準備を進めている朱音を目で追いながら黙々とナポリタンを食い続けた。
「理人が考えてる事とか、悩んでる事を別に俺らに話せなんか言わないけどさいい加減自覚しろよ?」
「何を?」
「皆お前を心配してる。元気がなかったらどうしたんだろう、何があったんだろうって気にかける」
「……」
「お前だけにじゃねぇよ?さっきみたいに奏汰が居なかったらどこに行ったんだろう、1人で留守番が苦手なのに大丈夫かな、とか」
理人だって心配するだろ?と。
「そんなの、当たり前だろ」
「そうだよな、当たり前だ。でも俺らが出会う前はこの当たり前は無かった」
「……」
日頃からDVをしていた朱音の父親は母親が夜逃げするとその標的をまだ子供だった朱音に変えた。
毎日神経を逆撫でしないように顔色を伺い、暴力に耐える毎日。
父親の怒号と朱音の泣き声によって通報され施設へとやって来たらしい。
父親と同じになりたくないと、朱音は基本的に人に優しくするのを意識している。
特に女には昔から優しい。

