「そんな訳ないでしょ!!翠は私が産んだ子供なの、大切なの!必要じゃない訳ないでしょ!」
きっと大丈夫なのに。
「今まで辛い思いをさせて本当にごめんなさい。こんな私を、許してほしい」
俺と翠は同じはずなのに。
涙ぐみながら謝る翠の母親。
室内から分かる生活環境の差。
何を持って俺はコイツと同じだと思っていたんだ。
彼女は深いほどに愛されていて、俺は愛される前に捨てられた。
他人に、心を許すのはもうやめようといつかの日に決めたのに依織くんのせいでその考えは消えていた。
…いや、俺は心のどこかで分かっていたはずだ。
整った生活環境。
お嬢様学校じゃないとはいえ、遥かに違う育ちの差。
今まで、自分にとって都合の悪い彼女の全てを今更ながらに思い出した。
分かっていたはずだった。
でもいつからだ。見て見ぬふりをしていたのは。
友達の話や学校の話を嬉しそうに話す彼女に。
家に帰って行く度見せる寂しそうな背中に。
全て都合が良いように記憶を書き換えていた。
分かっていただろう?
………分かりたくなかった。

