朔良さんは翠を見て軽く会釈をした後に朱音の方へと向いてしまった。
…まぁ、そりゃそうだ。
まず堅気の人間とあまり関わらないようにしているんだから。
2人はこうしてたまに朱音の店へとやって来る。
様子を見に来てるのか、単純に遊びに来ているのか。
多分両方だけど。
ここに来たら大体3人揃ってるもんな。
朱音は営業があるし、奏汰は家で1人で居るのが嫌なのか仕事帰りは必ず店に寄る。
『母ちゃん、帰って来なくなったんだ』
幼い頃にそう言っていた。
夜職をやっていた母親は新しく恋人を作り、そのままある日帰って来なくなったという。
餓死寸前のところで見つかり、俺と同じ施設へとやって来た。
1人で居ると思い出すのか、心配になるのか、本人は意識していないと思うが常にここに居るのはそのせいだろう。
お互いに傷を舐め合っているんじゃない。
同じような痛みが分かるからこそ一緒に居るのだ。

