最初はただ興味本位だった。
遠くを見つめていた時の横顔も、他とは少し違った雰囲気を纏っている事も。
多分それが、柄にもなく人助けをするきっかけになったんだろうと他人事のように結論付けた。
自分が生まれてすぐに捨てられた捨て子だからか、周りが気付かないような些細な事に敏感になっていて、あぁこの子にも“何か”あるんだろうなと思った。
お嬢様学校できちんとしているはずの女がどうしてこんな所に。
祝日が明けた、ちょうど放課後であろう時間に合わせてわざわざ学校の最寄り駅で待ち伏せしたのだ。
お節介だろうか。
…お節介くらいがちょうど良いと俺は依織くんに言われたけど。
「…あ、どうも」
「………え、」
俺の目の前を通り過ぎようとした女に声を掛けた。
学生証に載っている写真と同じ顔。
「一昨日ぶり」
「……一昨日、って」
「あれ、違う?」
「すみません、誰かと間違えてるんじゃ…」
傷みを知らない真っ黒な長い髪。
風が吹いてサラリと揺れた。
「宇佐美翠だろ?あんた」
「な、なんで名前…」
ポケットから学生証を取り出し、見せるとハッとして焦ったように鞄の中を漁っていた。
見つからなかったのか、バツが悪そうな表情をしている。

