「…すみません、友達と来てるので」
「いーじゃんいーじゃん。後でそのお友達も呼べば!」
「へぇ、よく見ると可愛いなあ。名前は?」
「あの、手、離してください…」
「ま、上でじっくり聞けばいいか」
「行こ!」
無理矢理腕を引っ張られている黒髪の女。
どう抵抗したってあの男に力では勝てないだろう。
かと言って叫んだとしても周りは面白いものを見る目で見て助ける事はしない。
「っ、離して、」
…はぁ、
まだ煙草吸えるのに。
でもまぁ今暇だし、たまには良い事をしてみようかと煙草を灰皿に押し潰した。
「何してんの?」
我ながら人助けなんて珍しい事をしていると頭の隅で思っていた。
よく知りもしない女を助けるなんて。
勘違いでもされてめんどくさい事になったらどうすんだと本来の俺なら考えるはずなのに。

