ある金曜日の夜、いつもの様に出勤して依織くんや先輩達の指示を従順にこなした後だった。
相変わらず露出度の高い服を着た女とチャラい男がイチャコラとしているのを、テーブルに灰皿を置いてフロアをボーッと眺めていた。
1歩引いただけで向こう側がまるで別世界のようで、見ていて飽きない。
クラブが開けば人が沢山入ってこんな風にサボってても割とバレないのも良い。
そんな時に視界の端に入ってきた一人の女。
いい意味でも悪い意味でも浮いていた。
…初心者かよ。
大人しそうな見た目なのに割とこういう奴も来るんだな、と思った。
いや、人を見かけで判断するのも如何なものかと思うけれど。
煙草の灰を灰皿に落とした時、不意にその女を見ると俺と同じようにフロアをボーッと眺めていた。
1人なのか、それとも向こうに友達がいるのか分からない。
「えっ、」
「今1人?かわいーね」
「…いや、あの、」
「俺らVIP取ってんだけど一緒に行かない?」
…おー。ナンパされてる。
しかも古典的な方法で。
結構話し声が聞こえるもんだな、と思いながら2本目の煙草に火をつけた。

