しばらくすると彼は「自分でやれ」とそのまま手渡された。
そのまま私の横を通り過ぎていく彼を目で追っているとそこには飲みかけのグラスと灰皿が置かれたテーブルがあった。
灰皿にはまだ長さのある煙草が押し潰されていた。
ハッとして周りを見ると、ここはさっき私が絡まれた所から見える場所だった。
…もしかして、煙草を途中で消してまで助けに来てくれたの?
「…なんだよ」
「本当に助けてくれてありがとうございました」
「さっきも聞いたわ」
「でも…」
「翠!」
背後から名前を呼ばれて驚いて振り返るとフロアで楽しそうにしていはずのユズがいた。
「どうしたの?」
「もう帰りたくなった」
「え?もういいの?」
うん、と不機嫌なユズに頭を傾げながら「そっか」と口にする。
出口に向かって行くユズに慌てて助けてくれた彼の方を振り返ると彼は新しい煙草を吸いながら私を見ていた。
長めの前髪から覗く目。
もう来んなよ、とそんな目をしていた。

