家から徒歩10分の距離にあるクラブ。
もう既にそれらしい男女が店の前で屯っていた。

そいつらをなるべく視界に入れないようにクラブの裏手に回って陰にしゃがみこみ、煙草に火をつける。

7月に入り、未だジメジメとした天気にうんざりする。
俺はどちらかと言えば秋から冬にかけて少しずつ寒くなっていく季節が好きだ。


街灯の明かりが届きにくい薄暗いここは、俺の特等席でゆっくりとした時間が流れている感覚に襲われる。



「理人」



そんな特等席を更新してもすぐに俺を見つけ出すのが依織くんだった。


「今度はここかよ。薄暗ぇ所で煙草なんぞ吸いやがって」

「…依織くんってかくれんぼの鬼になったら最強っすね」

「あ?つか今何時だと思ってんだよ早く中入って仕事しろ」


子供の頃からお世話になっているこの人は尊敬しているけれど、会話していると毎回子供のように反抗したくなる。


「つかお前さ、電話くらい出ろよ。何の為にスマホ持ってんだよ」

「連絡取る為」


そのせいなのか、昔から小さな喧嘩が絶えなかった。


「何か事故にでもあったのかとか、心配になんだろうが」

「俺もう20歳の男なんだけど」

「俺からしたらまだお前はクソガキなんだよ」


バコッ、と自分の頭から鳴るべき音じゃない音が聞こえてついに死ぬんじゃないかと思った。

それくらい本気でこの人はいつも殴ってくる。